社会福祉研究交流集会
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第5回社会福祉研究交流集会特別分科会報告
社会福祉施設経営者の立場から
社会福祉法人コスモス(大阪府堺市)
常務理事豊田八郎
I、民間社会福祉の存在と「改革」へのプロローグ
1、社会福祉事業の公的責任
経営の立場から社会福祉事業が存在するための指標、まず社会的指標についていえば憲法25条の国民の生存権規定であり、経済的指標は公金支出です(利用者からの費用徴収と切り離している)。社会福祉は公の事業であり公のお金で賄われていて、社会福祉事業における「公の責任」と「国民への福祉」という複合的利益に対応しています。
しかし、ここ1〜2年の間に開催された民間福祉関係者向けの「社会福祉構造改革」に関するセミナー等では、「儲けましょう」「民間の時代」「ビジネスチャンス」などと、民間福祉の目的が「利潤」であるかのように、露骨に単一指標(利潤目的)で社会福祉から市場福祉への変質を政策的に誘導してきています。
さすがに、厚生省の説明も、最近になって
(社会福祉基礎構造改革の理念)
[理念]…措置制度論と市民社会論と社会連帯論
(1)経済的要因一・・平等化から公平化への下支え[社会的費用]
参考継続的な人的サービスの利用システム
(2)法律的要因一・・公法から私法への下支え[成年後見法など]
(行政処分)(契約)
(3)複合的要因一・・恩恵から対等へ下支え[共感と技術]
(保護)(自立)
と、複合的指標論を展開するようになっていますが、本質(公的責任論)を反らした(「改革」理念の特徴)都合のいい理論の展開でしかありません。
2、民間社会福祉の存在
「公の事業」である社会福祉の分野での「民間」の存在ですが、公が社会福祉の整備を民間に委ねてきた歴史的経過と、戦後社会福祉における公の責任論が、社会福祉事業について主に「国、地方公共団体又は社会福祉法人」が経営することを原則としたのです。(社会福祉事業法第4条)
社会福祉法人としての経営体の性格は、「寄付行為」(個人や多数者の意思)と公的資金(施設整備費)によって設立されるところから、「寄付行為」を以て民間社会福祉事業といわれていますが、公益と非営利を原則とし、公的社会福祉制度の枠に属しています。社会福祉法人には財産の最終処分権はなく、解散時の保有財産は別の社会福祉法人か国に帰属させることとなっています。
さらに、社会福祉法人に「寄付行為」の変更が認められたことから、時代や情勢に対応しつつ経営を発展させてきた法人もあり別表1で示すように、多様な経営(財政)規模の社会福祉法人が存在しています。
社会福祉法人が行う事業も、社会福祉事業は公の事業として、その運営費は公金である措置費(社会福祉事業法第5条の1、公の責任の転嫁等の禁止)によって保障されています。国民は行政の措置(委託)によって施設を利用することができる仕組みとなっていて、施設の運営は、最低基準や様々な公的規制によって処遇の質(水準)が守られ(最低基準や「本部と施設会計」の区分)、措置費はそれを維持するための経費となります。
「寄付行為」=特に法人設立時の土地保有と施設整備費用の4分の1の自己負担分を私有(個人の)財産に依拠することで、法人の性格が私企業化し、経営や運営の私物化など私的利益に社会福祉事業が利用されたり、また、法人の自己負担分の捻出が社会福祉法人腐敗の温床となることもあります。
民間福祉業界には、規制緩和や措置費の弾力運用などを求める動きがあります。
「改革」の内容もその方向に動いています。しかし、だからと言って、民間が社会福祉の領域で福祉の市場メカニズムを形成してきたなどとは言えません。
「改革」=市場福祉は国の政策であり、それを待望する一部の民間社会福祉経営者や、営利企業の保育や介護の分野での企業活動が厚生省の「下支え」をしているのです。このことからも「改革」の方向が、社会福祉における公的責任の後退、施設運営における規制緩和と費用の弾力運用、そして民間営利企業の参入が主課題で
あり、「措置」から「契約」への利用方式の変更で「サービスの対価(利用料)に対する公的助成」が前提になっています。
U、「改革」で何が変わるのか
1、社会福祉事業法「改正」について
「措置」という公的責任から、利用者と指定事業者(施設)との私的な「契約入所」への転換は、施設運営における「公的財源の保障」の必然性をなくし、また社会福祉施設も「公立」でなければならないという根拠(福祉事業の実施主体から市町村がはずされ、市町村は供給主体から調整機能・補助金支給機能に変質?)がなくなります。「公の事業」という位置づけはなく、「公的責任の所在」もサービス供給体制の整備を推進し、その利用を支援(公費助成)するという考えに大きく後退しています。また、市町村と事業者は利用者に対し情報提供が必要となります。
当面「利用方式」も多様で(措置)行政による措置[委託・費用徴収](選択利用)利用者による事業者の選択と行政への申し込み[委託・費用徴収]
(契約支援)利用者が直接事業者と契約[利用者への費用の一定部分の助成]
(任意契約)利用者が直接事業者と契約
(随意利用)施設等行くことで利用できる
(保険給付)利用にあたって保険給付の適用を申請する[保険財源の50%]
に見られるように、「措置」や「選択利用」に基づく社会福祉施設の事業は、公の責任として、事業者への利用の委託契約、費用の公費負担という従来の関係を残しながら(保育所入所では、利用者が市町村に申し込んだ時点で公法上の契約が成立し、市町村の保育保障義務・最低基準遵守・保育運営費の負担義務などの公的責任
の枠組は残こされている)、大きくは「契約支援」「保険給付」に変わろうとしています。
社会福祉事業法等一部「改正」法案大綱では
(1)、「措置制度」から「契約制度」への転換
@、「措置施設」から契約制度下では「指定事業者」に。
A、「指定事業者」は、利用者の自己負担額を控除した「支援費」を市町村から代理受給する。
B、「指定事業者」は、利用者から自己負担額と付加的サービスの利用料を徴収する。
C、知的障害者福祉法、身体障害者福祉法、児童福祉法(児童居宅介護等事業、児童デイサービス事業、児童短期入所事業)は2003年4月から契約制度(契約支援方式)に転換。(保育所等、現在「選択利用方式」のものも、将来は契約制度に)
(2)、社会福祉法人設立要件の緩和
@、障害者の適所授産施設の要件を緩和し、社会福祉法人の設立を促進する、(資産要件1〜2000万円、規模要件も1O人か15人でも)
A、在宅サービス等を経営する法人の資産要件(1億円)の大幅引き下げ。
B、適所施設の用に供する、土地・建物についての賃借を認める。
C、持ち分の禁止(解散時に寄付者に戻等ないこと)の維持。
(3)、措置から契約への制度改正に対応する会計への改正
@、本部、施設会計の区分撤廃。
A、施設整備費等法人の自己負担分の減価償却の導入。
B、固定資産の減価分を減価償却の方法で資産の適正な評価を行う。
C、簡潔明瞭な財務諸表の作成。
D、経営努力(効率性)が反映される会計。
E、資金移動の弾力化と外部流失しない会計。
(4)、多様な主体の参入(提供主体の多様・多元化)
@、保育所への民間企業の参入。(運用事項)
A、介護保険による、特別養護老人ホームを除く事業への非営利・営利企業等の参入。
などが出されています。
2、社会福祉法人の経営
別表1でおわかりのように、現在の会計は施設会計が中心で、それぞれの施設に引当金や繰越金が設けられていて、法人に繰入れできる額には制限があります。
「社会福祉法人会計の在り方(基本方針)について」では、法人単位の経営を可能にするため、現行の本部会計と施設会計との厳格な区分をなくし、会計間の資金移動を弾力化し、施設整備のための積立金や引当金も認めていくことになっています。固定資産の減価償却(資産の時価評価)や施設整備費等法人の自己負担分の減価償却(投資資金の回収)、さらには施設整備に係る借入金の償還への収入からの充当と、現在の社会福祉法人の基本的性格(公益性・非営利)を変えるに十分な「改革」の内容となっています。
簡潔明瞭な財務諸表の作成や経営努力(効率性)が反映される会計のあり方は、収支と損益の把握、利益の計算ができる会計になり、これからの法人経営は「元(投資分)を取り戻す」とか「資産の減価償却分を積み立て」するとか「儲け(利益)る」が経営目的となり、本来め社会福祉事業の公益性・非営利性を薄れさせ営利企業的体質へ変質するに充分な内容となっていて、利用契約制度への移行と重ねてみると、社会福祉法人を市場福祉の担い手として取り込み、営利企業や多様な経営主体の参入で、福祉の市場メカニズム(幅広い需要に応えるため→様々なサービスが必要→多様なサービス提供主体の参入の促進)を形成しようとするものです。
3,「改革」は次へのステップ
法人運営には民間企業の経営手法が導入されますが、社会福祉法人としての公益性を維持するため「資産の外部流失しない会計」「持ち分の禁止(解散時に寄付者に戻さない)」と、外からは一店「鍵」を掛けておくといった「改革」になっています。
次の「改革」は、措置制度は限定的に温存しつつ、保育所入所等にみられる「選択利用」を速やかに「契約支援」方式へと移行させ、そして外からの鍵を外す(他の事業主体との競争条件の整備)ことで、「改革」では残された「施設整備補助」や「応能負担」まで踏み込んだ「改革」へと進む危険性を持っています。いつか、社会福祉法人も売買の対象になっていくのかもしれません。
4、すでに始まっている「改革」の先取り
資料U「社会福祉基礎構造改革と社会福祉事業法改正の流れ」、資料皿「お金の流れと施設職員の賃金をめぐる動き」にもあるように、すでに、公立保育所等の民間移管や自治体の単独事業や財政補助の見直し等「公」の変質が始まっています。
また、「規制緩和」や「弾力運用」は、「経営主義」の傾向と「改革」の内容に対応できる仕組み、例えば、利用料徴収の遅れや滞納、介護保険報酬の後払い制への対応など運転資金の準備、減価償却や内部留保のための支出抑制などを可能にしています。
多くの民間福祉関係者は「変化への対応」「財政安定」「50%を超える人件費の抑制」とマインドコントロールされ、人件費比率・正職比率・非常勤比率全てが50%が生き残る道と、露骨に「5・5・5」という数字が経営者の頭に叩き込まれ、職員処遇が決め手と、国(福祉職給与表)も自治体(給与改善費の見直し)も一緒になって民間を巻き込んだ課題となっています。
すでに、企業参入の実験「原型保育」、24時間ホームヘルプの分野や公立保育所の調理が企業委託されるなど、企業の保育や介護への進出が始まっていて、公立保育所の民営化などにも企業や学校法人の姿も見えています。
V、コスモスの取り組みと私たちの課題
1、地域を舞台に
子どもを通して親たちが手をつなぎ、子どもを思う気持ちが親の共同をつくっています。障害者であるわが子の将来を見据え親の連帯と運動があり、介護を支え合う住民の輪も広がっています。
地域の福祉全体のレベルアップをはかる必要があります。人々にとって、地域での暮らしが、地域住民との連帯や協力に支えられ、人間らしく豊かなものであるための「地域づくり」の取り組みが課題です。
子ども、障害者、高齢者に対しての相談や訪問活動、在宅支援や適所や入所を含む多様な支援を可能にする実践、実践では家族の問題や、家庭の問題を支援するネットワークづくり、福祉事務所や保健所それに施設間の共同の取り組みを大切に、地域から人々の協力や福祉労働(コミュニケーション労働)の正しいあり方を求める中で、地域を変え、憲法で保障されて権利としての社会福祉が当然進むべき進歩の道を築いていきます。(別表X「地域における法人事業の展開」参照)
2、市場福祉との対決
別表W、「社会福祉施設の経営環境とコスモスの経営姿勢」では、「社会福祉における公的責任と共同性の追求」を課題に
(1)、社会福祉法人として「公益性」と「非営利」の立場を貫き、公に対する自主性の確立と、地域住民に支えられ積極的に事業を展開していく。
(2)、住民や利用者の生活実態や要求を踏まえ先進的・先駆的な実践の取り組みと、社会福祉制度の拡充に取り組む。
(3)、「措置制度」の主旨を守り公的責任を求める姿勢と、経営や施設運営の社会性・公共性を守り、利用者や働くものの権利保障の視点を大切にする。
ことで、市場福祉との対決点を明確に、「公的福祉制度の再構築」の拠点としての役割をはたしていきます。
3、労使の共同と民主的経営者の組織化
市場福祉と対決するには、経営や労働を本来の福祉労働の質に依拠して高めるという点で、労使関係の安定は特に重要です。
また、今の福祉の流れに対抗し、社会福祉の民主的発展を課題に、業種や地域を越えた、全国的な民主的経営者の結集をさぐっています。
W、「改革」のエピローグ
「改革」が、既存の法律や制度では対応できないものや法定外施設の存在など、有効に対応することが求められていますが、社会福祉から市場福祉への変質は明らかに憲法違反だといえます。
それに、市場福祉への試みは必ずしもうまくいっておらず、民間企業参入の露払いといわれる公立保育所の民営化が住民の反対で中止になったり、保育分野への企業参入も採算べ一スを割り補助金無しではやっていけなくなっていて、延長保育や土曜保育は採算にあわないと打ち切り、また無理に利益を上げるため、通常でも常勤は責任者一人で他の職員はパートで保育がされるなど問題は深刻だといわれています。
また、施設を経営する社会福祉法人が全国で約11OOOあるといわれ、8000以上が保育所経営法人であり、圧倒的に一法人一施設経営の法人であるといわれています。
多くの弱小法人に、市場福祉への最後の「鍵」、社会福祉法人の売却などが認められるとすれば、福祉を支えている実態の崩壊すら起こしかねません。
福祉は人々の協力や共同でこそ進歩し、公と一体となり支えあってこそ国民の福祉は守られるものです、競争原理や市場福祉はそれと馴染まず結果として失敗せざるを得ません。
社会福祉法人のこれからを考える時、公の事業としての社会福祉事業の担い手としての役割と、公の責任の枠組をさらに広げる取組を続けたいと思っています。
重度障害者にとって「社会福祉基礎構造改革」とは何か
工房シティのなかまの実態から
身体障害者通所授産施設(分場)工房シティ
代表山口映子
1.工房シティのあゆみ
新作業所建設準備会 入所希望していた作業所が定員いっぱいになり、入所希望の親が立ち上がる。
小規模作業所工房シティの誕生 借家を借りての開所。
分場制度を利用 分場とは言え石川県では2つ目の法定内作業所誕生
独立認可施設へ いよいよ独立認可運動へ
2.苦しい運営
家族の負担
小規模作業所時代 | 運営費 | 20,OOO |
認可積立 | 20,OOO | |
40,OOO | ||
分場(現在) | 運営費 | 2,OOO |
認可積立 | 2,OOO | |
4,000 |
高い家賃の支払い 月24万はどこから?
後援会の発展 後援会会員600名が工房シティを支えている。
きびしい分場の措置費(一人/月)
工房シティの措置単価 | 108,440 |
中心施設の措置単価 | 132,781 |
知的障害者措置単価 | 150,709 |
3.適所者の増加とさまざまな家庭状況
@豊かな経済力と豊かな愛情に囲まれて暮らす重複障害のAちゃん。
A早くに両親と死別し、重度障害でも一人暮らしにこだわって頑張るYさん。
B今年になって両親がなくなり、一人になったOさん。
4.本格的な認可運動へ
重度障害にとって苛酷な施設環境から脱却したい。
金沢市障害者プランの策定
判ってきた金沢市の姿勢
5.全員で築きあげてきた工房シティに「社会福祉基礎構造改革」は、どのような影響をもたらすのだろうか。
Aちゃんの場合
Yさんの場合
Oさんの場合
今まで低賃金に甘んじていた職員の身分保障はどうなるのだろう。
そして施設運営は安定されるのだろうか
小規模作業所の認可緩和要件と契約制度という、究極の選択を迫られる今。
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