福祉のひろば 2023年12月号商品コード:hiroba-202312
特集 変質させられる保育にあらがう
今年九月二五日、「子どもたちにもう一人保育士を! 実行委員会」などのメンバーが厚生労働省で記者会見を開き、「不適切な保育を考えるアンケート」の中間報告をおこないました。二七〇〇人あまりの保育士から回答があつまり、そのなかで、「いまの保育現場では、みずからも『不適切な保育』を起こしかねないと思いますか?」という質問に、「はい」と答えた人が四五%にものぼりました。
多くの保育園では、理念や保育で大切にしていることを定めています。子どもの人権を守り、一人ひとりの主体性を大切にする保育……とうぜんそこを利用する保護者は、日中、わが子は保育園でそうした保育を受けながら、のびのびと過ごしているのだろうと信じているはずです。しかし、前出の調査では、約半数が「不適切な保育を起こしかねない」と回答しているのです。
二〇一八年に改定された保育所保育指針でも、「子どもの主体としての思いや願いを受け止めること」「子どもの主体的な活動や子ども相互の関わりを大切にすること」が保育において大切だとしています。しかし、「四・五歳児で三〇対一」という配置基準で、一人ひとりの「子どもの主体としての思いや願い」を受け止められるはずがありません。このままでは、ありたい・あってほしい保育所の姿と現実との乖離はどんどん広がり、その矛盾は、保育所と保護者との分断を生みかねません。「不適切保育」という言葉が多用されるなか、その分断が深まり、保護者や地域が保育所の保育を監視するような方向に社会が向かいかけている危うさを感じざるを得ません。
「不適切保育」と言われると、現場における保育士と子どもの不適切な関わりだけが焦点にされているように感じます。しかし、「保育」は、配置基準もふくめた制度・政策、そして保護者や地域とのかかわりのうえでくり広げられていくものです。「不適切保育」いう言葉にのみ込まれることなく、子どもを真ん中に、子どもにとっての最善を保護者もふくめてみんなで考える保育を守っていくためのヒントを、特集でご協力いただいた二つの保育園の実践とエピソードから、考えてみたいと思います。
【ひろばトーク】
人権としての社会保障への立て直しを 大嶋 祐介
●特集● 変質させられる保育にあらがう
手放してはいけないもの、大事なことを確認できる機会に
和田 亮介
保育園と保護者の信頼関係を守るために 平沼 文代
「こども誰でも通園制度」創設の背景と課題 杉山 隆一
未来のない岸田「こども未来戦略」 垣内 国光
●トピックス●
児童相談所に求められる本来の相談業務 前田 治敏
「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」の施行に向けて
なぜ、岸田政権はマイナンバーカードの健康保険証利用にこだわるのか
黑田 充
[声明]障害者支援施設「三島の郷」での虐待事件について
●連載●
世界と交流する平和の船に乗ってみた! 根津眞澄+オット
第3回 パナマの先住民族「エンベラ族」の人々との交流
WORK WORK──わくワク──
オリジナルTシャツ みんなで作り上げる最高の一着 さくら坂
婦人保護運動のこれまでとこれから(9)
若年女性支援と新法① 仁藤 夢乃
ケア労働処遇改善キャンペーン!⑰ 香取 春美
人員不足で「仕事辞めたい」医療従事者に、処遇改善を
JОB&ACTION 全国福祉保育労働組合(33)
福祉職員の賃金大幅UP&職員増へ政治の決断を!
私の履歴書 社会福祉経営全国会議(33) 室井 宏文
「その人らしく生きる自由」が保障される社会に
阿修羅がゆく わたしが好きな釜ヶ崎(53) 水野阿修羅
相談室の窓から
子どもの最善の利益を最優先に① 青木 道忠
育つ風景
乳児保育の原点 清水 玲子
映画案内 『ある男』 吉村 英夫
現代の貧困を訪ねて 生田 武志
道又蒼彩の「カフカの階段」版画連作(1)
似らすとれーしょん道場 似顔絵まんがアート
笑う門には福来たるのじゃ! ラッキー植松
ホームレスから日本を見れば ありむら潜
花咲け! 男やもめ 川口モトコ
みんなのポスト/福祉の動き/今月の本棚
●グラビア● こどもたちを見守る大きなくすの木のように
~民営化から10年を振り返る~