いっぽいっぽの挑戦――沖縄の貧困・差別・平和と向き合うソーシャルワーク商品コード:ippoippo-201508
はじめに
この本は、沖縄で初めて地域に事務所を構えた(独立型)社会福祉士事務所いっぽいっぽとその後の展開の約6年間の活動についてまとめたものである。
「いっぽいっぽ」という名前には、いろいろな意味がこめられている。当事者とともにいっぽいっぽ歩んでいくという意味、私たちの実践がいっぽいっぽ進んでいくという意味、そしてその結果、社会がいっぽいっぽ変革されていくという意味、などである。
もちろん、うまくいったことばかりではない。一歩進んだと思ったら、三歩ぐらい後退してしまったのではないかという出来事も少なくなかった。特に財政難や人材確保がスムーズにできなかったことによる廃業の危機は何度も訪れている。これは、小さな団体の宿命的な課題でもあるかもしれない。
沖縄は、基地問題に対する関心は非常に高い一方で、各種のデータでも沖縄県民の暮らしぶりをうかがわせる数値はかなり厳しい値を示している。にもかかわらず貧困問題に対する関心は必ずしも高いとはいえない状況があったことも否定できない。このことは、「貧困」とそれにかかわる生活問題が、相対的に基地問題との比較のなかで埋没し、潜在化を進めてきた結果ではないかと考えられる。
そうした現状と向き合いながら、沖縄を拠点に実践を継続していくことの難しさを同時に感じてきたことも事実であり、「実践をどこまで続けていくことができるのか?」という問いと常に向き合ってきた。しかし、本当に「瀬戸際だ」と感じたときに、そのたびに、応援してくれる人が現れたり、当事者たちの生きようとする力に励まされて実践を続けてくることができた。そうした経験のいくつかを紹介しながら沖縄から発信する意味を見出すことができればと考えている。
この本を作っているときに、法律上も集団的自衛権の行使を可能にする「国際平和支援法」と10の安全保障に関連する法律を一括して改定する法案が衆議院を通過した。
ソーシャルワーカーの国家資格である社会福祉士の倫理綱領には、その仕事について「差別、貧困、抑圧、排除、暴力、環境破壊などの無い、自由、平等、共生に基づく社会正義の実現を目指す」ことが言明されている。集団的自衛権を行使するということは他国の戦争に加担する、あるいは巻き込まれるということが現実のものになるということである。「戦争できる国づくり」が着々と進む裏で、私たちが普段、向き合っている生活保護受給者や「法のはざま」といわれる人々の暮らしはますます厳しくなり、格差と貧困の拡大はとどまる
ところを知らない。 私たちは、ソーシャルワーカーとしてこの現実に向き合い、日本国憲法の理念実現に向けて、戦争立法に反対する立場を明確にしつつ、日々の実践とどのように向き合っていくのかを模索していく「いっぽいっぽの挑戦」を皆さんにお伝えしたい。
◆もくじ◆
Ⅰ 沖縄における反貧困ソーシャルワーク運動の展開と視点
──貧困・差別・平和を見つめて── ……………………………………………高木 博史
Ⅱ 沖縄の貧困と向きあうソーシャルワーカー奮闘記
~(『福祉のひろば』二〇一三年四月号~二〇一五年三月号連載)~………繁澤 多美
Ⅲ いっぽいっぽと共に歩んで
朝日訴訟の時代の再来の驚き 朝日 健二
大学コミュニティソーシャルワーカーの役割と「貧困」への取り組み 稲垣 暁
いっぽいっぽとの連携による初の生活保護仮の義務付け獲得まで 大井 琢
いっぽいっぽの会にかかわって─現実に学び、当事者と共に生きる活動へ─加藤 彰彦
Ⅳ 「沖縄の貧困」を問い続ける新たな展開と課題 …………………………… 高木 博史
あとがき