福祉のひろば 2018年9月号商品コード:hiroba-201809
『精神病院はいらない! イタリア・バザーリア改革を達成させた愛弟子三人の証言』(現代書館)という本は、二〇一六年に発刊されました。(この本は、二八〇〇円+税ですが、なんと『むかしMattoの町があった』という映画のDVD2枚が付いています。)
この本の第七章に「対談 映画『むかしMattoの町があった』の見どころ」と題して、ジャーナリストの大熊一夫と精神科医の伊藤順一郎の対談が掲載されています。
沖縄県の精神障害者の私宅監置問題もとりあげました。沖縄は、一九七二年まで私宅監置の拘束が制度としても残されていました。どうしても、イタリアのトリエステというまちの精神保健サービスへの道を、精神科医である故フランコ・バザーリアの道を、この特集で紹介すべきと考えました。
「Mattoの町」とは精神病院のことです。映画は、一九六一年に精神科医のバザーリアがゴリツィア県立精神病院長に赴任するところからはじまり、一九七八年の精神病院廃止法(一八〇号、別名「バザーリア法」)の成立の二年後で終わります。
大熊氏は、バザーリアや彼の仲間たちが語る施設とは、ずばりマニコミオ(精神病院)のことで、そこは、自由剥奪とか、管理とか、支配とか、隷属とか、抑圧とかがルツボで溶かされたような場所だと指摘しています。そして、「それが治療にふさわしくないということを、故バザーリアに代わってイタリア国営テレビが、お茶の間の国民に示した。実に二一%以上もの高視聴率でした」と紹介しています。この映画は、イタリアという国が精神病院をどう乗り越えたのかを全国民に示したのです。
伊藤氏は、二〇世紀後半から精神病を巡る状況は大きく変わった、と指摘します。治療とかリハビリテーションという概念が明確になったことと、もう一つは、回復にあたって医療のやれることは限られており、生活を続け、学び、働き、人を愛し、そのなかで安心感や自尊心をとり戻す、そのための工夫が、何より意味があるということです。精神病院は、その成立のときから社会防衛的な役割をもち、それを構造に取り込んできました。バザーリアがとりくんできたのは、歴史的必然に根ざした変革だと、指摘しています。
トリエステの精神保健サービスの実践は、隔離・疎外から、社会の包摂へ、そのための人びとの支えを築く実践でもありました。そして、生活協同組合という協同組織の存在でもありました。編集の準備の段階で全国精神医療労働組合協議会に出会いました。そして、インタビューをしました。日本は、日本の道を歩まなければならないのですが、それは、主権者国民の問題であり、精神障害者も、とうぜん主権者なのです。
【ひろばトーク】
精神障害者が地域で人として暮らせるために 白石雄二
●特集● 精神障害者が地域でふつうに生きる
【座談会】地域で、あたりまえに、生活したい!
──そして、その思いを支える実践とは
田中敬子/上田路子/下川紘典/野中康寛/山本耕平
精神障害者が生きる/活きることが保障されない社会で
山本耕平
沖縄の精神障害者私宅監置を考える 編集主幹
精神医療のあり方を問いかける
──全国精神医療労働組合協議会にお話をうかがいました
編集主幹
今こそ精神障害分野に風を 池山美代子
●トピックス●
6年前にひろばをつくった若者たちはいま 申 佳弥
●連載●
社会福祉研究に人生あり!
大学院生から大学教員へ 相澤與一
相談室の窓から
「しんどい」につつまれた本当の意味 青木道忠
育つ風景 絵を描きたい? 描きたくない? 清水玲子
「助けて!」って言ってもええねんで!
災害時の孤立・孤独をどう防ぐか 徳丸ゆき子
ひととしてあたりまえに生きたい
学生生活がおわり、就職 清田 廣
映画案内
わたしは、ダニエル・ブレイク 吉村英夫
現代の貧困を訪ねて 災害大国日本の自衛隊 生田武志
似らすとれーしょん道場 似顔絵まんがアート
インバウンドなのじゃ~! ラッキー植松
ホームレスから日本をみれば ありむら潜
花咲け! 男やもめ 川口モトコ
みんなのポスト /福祉の動き /今月の本棚 /
●グラビア● このまちで ふつうに暮らしたい
精神障害者が地域で、ふつうに、暮らすために